「舞洲から勝てるカラダを」スポーツ栄養学で選手を支える食堂が出来るまで。

大阪エヴェッサの管理栄養士、調理師監修の、スポーツ栄養学に基づく料理をコンセプトにした『健康スポーツ食堂「Athlete Table」』が、今年7月、大阪エヴェッサの本拠地・ 府民共済SUPERアリーナ内にオープンした。舞洲で活動しているトップアスリートだけで なく、スポーツを頑張っている子供達や、健康のために運動している方、またスポーツをする子供たちのお母さんなど、スポーツに関わる全ての人に向けた食堂として日々料理を提供している。

今回はスタッフである管理栄養士の安藤大貴氏に、本事業の立ち上げに至ったきっかけと想い、そして今後この「Athlete Table」の目指すものについて語って頂いた。前編はなぜ安藤氏がこのスポーツ栄養士として歩みを進めていこうと思ったのかという点を中心にお話を伺った。

スポーツ栄養学の世界へ導かれるきっかけとなった出会いと学生時代の学び

僕は名古屋大学教育学部附属中・高等学校の出身。この学校の授業の中に総合人間科という授業がありました。この授業では、毎年自分が興味のあることの専門家や関係者にインタビューしに行くんです。1年に1テーマ、6年間で 6テーマを自分の課題として掲げ、6年かけて(※中高一貫校)自分の生き方を探っていくんです。

この世界に興味を持ったのは中学3年生の時。 中学3年生当時、僕は野球部に入っていたのですが、中高一貫ということもあって高校生と同じグランドを分け合う形で練習をしており、高校生の諸先輩たちの練習を間近に見ることができる環境だったんです。

そこで感じたのは、高校生の先輩たちとの体格の差。背は変わらないのに、体格は全然違ったんです。当時の僕は身長は180cmぐらいあったんですけど、体重が60kg以下。身長の伸びに体重の増加が追いついていなかったんですね。一方、先輩たちは80kg近い体重で打球の飛距離も投げる球のスピードも全然違いました。このとき、「このままじゃ高校で野球はやっていけない。なんとか身体を大きくしたい」と思いました。その身体づくりの手段として、トレーニングについてももちろん勉強したのですが、食事やサプリメントにすごく興味を持ったんです。

 

そう思っていたとき、先に話した総合人間科の授業があり、高校1年生のテーマをスポーツ栄養学について調べてみようと思い、公認スポーツ栄養士の管理栄養士の先生にインタビューしに行きました。

このインタビューにとても感銘を受けて、スポーツ栄養学という学問にのめり込んでいく僕がいたんですよね。「これが僕の本当にやりたい仕事なのかもしれない」と初めて思い、この世界を目指そうと思ったきっかけになりました。

 

高校3年生の総合学習の最後の年には、柔道日本代表の管理栄養士さんにインタビューしに行ったんです。北京五輪の1年前だったと思うんですけど、食を通じて世界で戦うアスリートのサポートをされている、その姿に非常に強い憧れを感じたのをよく覚えています。当時僕は愛知県に住んでいたのですが、どうしてもインタビューをさせていただきたくて。自力でアポイントメントをとり、東京までインタビューしに行きました。

県をまたいでインタビューに行ったのは僕が唯ーだったと思いますね(笑)。このインタビューを通じてプロの世界で栄養士として働くことへの憧れを非常に強く持ち、この道を究めていこうと覚悟を決めました。

 

明確な夢をもって高校を卒業することができ、大学は神戸学院大学栄養学部に進学しました。管理栄養士の養成に定評のある大学でしたので、大学4年間は栄養士としての基礎をしっかり固めて、大学院でスポーツ栄養学の勉強をしようと思っていました。

なので、大学時代の4年間ではスポーツ栄養学の実践的な経験をできる機会はほとんどなかったのですが、色々な研修会だったりスポーツ栄養学に関連する学会には、当時のアルバイト代のほとんどをつぎ込んで全国各地に積極的に足を運んでいました。大学院の時に自分がどんな研究に取り組みたいのかということも、大学生のうちから考えていましたよ。

 

現場に出て感じた、食を机上で指導·管理することへの違和感

大学を卒業して管理栄養士の国家資格を取得後、実家のある愛知県の至学館大学大学院に進学して念願のスポーツ栄養学を専攻しました。卒業後は至学館大学健康科学研究所の特別研究員としてスポーツ栄養学に関する研究や、アスリートの身体づくりやコンディショニングを目的とした食事指導を中心に、これまでとは違って現場での活動を主にしてきました。

当時はセミナーのような講義形式や、個別の栄養指導で選手を指導することが非常に多かったんです。つまり、机の上でやる栄養指導が多かったですね。

 

しかし、次第に食というものを机の上で指導することに違和感を感じ始めたんです。

例えば、トレーナーさんがトレーニングの指導を机の上で行わないですよね?トレーナーさんは実際に選手に付いてトレーニングをして、その中で選手を見ながら負荷を調整したりフォームの指導を行うことで、効果的かつケガのリスクが低くなるようトレーニングをサポートするわけです。

 

だけど、なぜか栄養士の指導というのは机の上で行うことが多い。本来、食習慣の改善を効果的に実施しようとするのであれば、理想の献立を料理として提示したり、実際に一緒に料理してみたり、常に料理や食材が目の前にある状態で指導が行われるべき。僕のカウンセリングを通じてストレスを感じてしまっている選手を見たとき、はじめてこの机の上だけで栄養指導を行うスタイルではダメだと感じたんです。